母校が廃校になった

2010年12月3日

アスコーマーチ

「母校が廃校になった」といっても、けっして過疎の村の話ではない。私が通っていた東京都内の学校の話である。
昭和46年、私は「東京都立王子工業高等学校」という男子高を卒業した。その工業高校が昨年廃校になったのだ。そして来年2011年に「東京都立王子総合高等学校」という名称で、共学の普通高校として新規に開校するのだという。新装開店というわけだ。昔ながらの工業高校という役割が、この時代に合ってないということなのか。NHKの大好きな番組「高専ロボコン」では、優秀な「高等専門学校」の生徒たちががんばっているけどね。
母校だった王子工業高校には、機械科・電気科・電子科の三つの科があって、私は電子科だった。電子科といってもまだ真空管全盛の時代で、電気科との学科の違いはあんまりなかったんじゃないかと思う。コンピュータの基本である「1/0」を学ぶための機器は、中に真空管がズラリと仕組まれた、両袖机みたいなグレーの巨大な鉄の塊だった。まだ、パーソナル・コンピュータなんて概念そのものがない時代。
学校のあった北区滝野川までは、本郷通りを走っていた19系統「通三丁目→王子駅前」行きの都電で通っていた。「東大農学部前」で乗車して「飛鳥山」駅で下車する。この頃の私といえば、高校生なのに文京三中の中学生に間違われるほどの「美少年」だった?のさ。
当ホームページの「エクスタシーオーディオ」コーナーで紹介している私のオーディオ趣味は、工業高校へ通ってなかったらやってなかっただろうし、ましてやオーディオアンプを自作するなんてこともなかっただろう。今でもヤニ入りハンダの焦げる臭いは大好きだ。工業高校の三年間は、それなりに人生に影響をおよぼしているわけだ。
当時、国鉄(現在のJR)の切符売り場に自動販売機が導入され始めたころで、その自販機を開発した立石電機(現オムロン)に関係していた電気科の先生が、優秀な生徒の青田刈りをしていた。あの当時入社した同級生はきっと偉くなってるんだろう。親友はリコーに就職した。私はといえば、担任の数学教師との確執から電機大への進学を諦め、地方公務員になった。工業高校卒がなんにも役立ってない。しかもその後、美大へ進むわけだから、まるでなんの脈絡もない人生だ。
さてここでご紹介する本、「アスコーマーチ」というタイトルの漫画である。少女漫画だ。よくある学園物だが、なんと工業高校が舞台なのだ。第一志望の女子高を体調不良で落っこちた主人公「吉野 直」が、すべり止めも受けてなかったもんだから、仕方なく入学したのが148人の新入学生に女子生徒4人という「県立明日香工業高校」アスコーだ。まだ一巻目なので、およそ登場人物の紹介みたいなストーリーだが、それなりに面白かった。少女漫画(今でもあるジャンル?)を読むこと自体久しぶり。むかしは「竹宮惠子」とか「萩尾望都」とか、よく読んでいたけど。
巻末に「東京都立墨田工業高等学校」の先生・生徒の協力を得たという記述。漫画のなかでも、進学校とのレベルの差なんかがストーリーにからめて出てくるし、けっこうリアルだ。
だが、工業高校へ入学すると必ずつくるグレーの作業服のズボンの採寸で、一物(おちんちんのこと)が右に収まるか左にいくかを、ユニフォーム屋のオバサンが手でいちいち確認した、なんてリアリティは当然のことながら描いてない。少女漫画なんだからあたり前か。
12月になって興味深い新聞記事を見つけた。「どぼじょ」増えてます』のタイトル。かつて3Kと言われた土木系業界で働く女子が増えているのだという。はじめに紹介した「アスコーマーチ」なんて漫画があるくらいだから、驚くほどのことではないのか。だが、長らく大手ゼネコンの広告を担当して、企業体質をよく知っている私としては、この時代の価値観のおおいなる変化を驚きをもって感じている。記事で紹介されている「どぼじょ」のひとりは、工業高校から関西学院大学へ進学したのだそうだ。「姫」と呼ばれ活躍する女子たち、きっとジェンダーやらフェミニズムな目線も逆手にとって、生き生きと働いているんだろう。将来の目標をきちんと持って、土木業界を目指す女子学生たち。なんの脈絡もなくウロウロしながら歳を重ねてきた私は、ただただ感心するばかりだ。

更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26