オーディオ&レコードモチーフジャケコレクション〈1〉


2008.3.24

オーディオ機器が「家具」だった時代

家に初めてオーディオ機器が納入されたのは、私が中学生のときだった。3つ上の姉が高校入学祝いに買ってもらったもので、パイオニアのセパレート型ステレオセット。まん中の箱に、総合アンプ(アンプとチューナーが一緒になったもの)と、レコードプレーヤーが収められていた。当時、庶民が「ステレオ」と呼んだオーディオ機器の売れ筋は、家具のような木箱に収められたコンソール型が主流で、コンポーネントタイプのアンプやプレーヤーはマニアのもの、ときちんと仕分けされていた。当時発売がはじまったもう一つの花形電化製品、カラーテレビも「魁」とか「技」とかいうネーミングで、ものすごくゴテゴテした飾りの木製(木目のプラスチックだったかも)の巨大なものが流行っていた。我家のステータス、見栄が満足できるだけの飾りや大きさ必要だったのだ。うろ覚えだが、カラーテレビ「魁」を買うと、テレビの上に飾れるピカピカの置物がおまけで付いてきたはずだ。

我家のステレオはその当時の最新型だったはず。シンプルな木製箱の3点セットで、レコードプレーヤーは通常はセンターコンソールの上部にあるが、この機種は下に設置されていた。プレヤーが収められた部分の木蓋を手前に引いて倒すと、中の照明が点灯してレコードプレーヤーがライトアップされる。それはそれはワクワクさせる演出だった。大学時代、姉がステレオ装置に無関心なったころ、このセパレートステレオをバラして収納庫につくりかえた。スピーカーボックスの表側の重厚さはイカサマで、ほんとうはペラペラの10ミリぐらいの合板で、取り付けられていたスピーカーユニットも、16か20センチくらいの安物であった。プレーヤーはたしかニート製のOEM品だったと思う。結局、収納庫にもならなかった。

当時はLPレコード一枚2,000円。大卒の初任給が3万円に届かない時代だったから、そう易々とレコードを購入することはできない。我家のステレオ装置で初めて聴いたLPレコードは、姉が買ってきた「セルジオメンデス&ブラジル66」だ。これは今でも愛聴している名盤。(わたしはたわしコラム「キレないオヤジたち」ご参照を)
それから数十年経って、中古レコード蒐集がはじまった。その過程、一枚のレコードがきっかけで、ひとつのコレクションジャンルが誕生した。

そのレコードとは、下に紹介したコレクションの最初に登場する「DOROTHY DONEGAN(ドロシー・ドネガン)/Swimgin Jazz In Hi-Fi」(左)である。このレコードは、私の別のレコードコレクションジャンル「グリーンドルフィンストリート」収録レコード盤の一枚だった。
このレコードジャケット写真にデザインされている、スピーカーの素性が一目見て分かる人は、かなり年季の入ったオーディオマニアである。AR(Acoustic Reseach)社製の「AR-3」。いわゆる小型ブックシェルフ型スピーカーの元祖といわれている歴史的機種である。現在主流のバスレフ式(箱に穴が空いていて、そこから出る空気が共振して疑似(ウソの)低音を出す)とは違う、アコースティック・サスペンション方式とよばれる穴のない密閉型で、ウーハーに強度がある重いコーン紙を使って、当時最先端のトランジスタアンプのパワーをぶち込んで、しまりのある低音を出すというスピーカー。大出力のトランジスタアンプが登場しなければありえない、新理論でつくられたスピーカーである。1960年代当時一台15万円位していたから、とうてい庶民に手が出せるはずもない垂涎の逸品であった。

そんなスピーカーの名機が、レコードジャケットを飾っていたのだ。飾っているというより主役扱いだ。スツールの上に置かれたり、花瓶が乗っていたり。周りに置かれたセパレートオーディオアンプとレコードプレーヤーがAR-3を飾っている。主役のはずの黒人女流ジャズピアニスト「ドロシー・ドネガン」のことなんかすっかり忘れてしまったみたいに、オーディオ機器が主役なレコードジャケットなのだ。いったいどういうコンセプトで、こういうデザインが決定されたのだろう。心当たりといえばこのレコードのタイトル「Swimgin Jazz In Hi-Fi」。Hi-Fi(ハイフィディリティー)を謳ったレコードということらしい。だが、聴いてもさほどハイファイな音はしない。

「ほかにもこんなふうにオーディオ機器をモチーフにデザインされたジャケットがあるのろうか」そんな興味が、このコレクションのきっかけとなった。探してみるといろいろと秀逸なデザインのレコードが見つかった。オーディオ機器だけではなく、レコードそのものを小道具に使ったアルバムも見つけ、コレクションに加えていった。以下がそのコレクションである。(随時追加予定)

実は、このコレクションにぜひとも加えたい未蒐集アルバムが一枚ある。「JIMMY SCOTT/Falling in Love is Wonderful」。2008年3月現在82歳で、今も活躍している名黒人ジャズシンガーの若かりし頃の一枚だ。いいですねー。暖炉の前でしなだれる黒髪の白人美熟女。周りにはレコードジャケットが数枚散らかっている。臨戦態勢の(たぶん)ジミーの表情もやらしくていい。


現在発売されているCD(左下)は、オリジナル盤とは違うジャケットデザインが使われている。1962年オリジナル盤発売時に契約権利問題があって、店頭からレコードが回収されたということだ。
(もしかして真相は人種差別問題だったのかも・・・)
CDジャケットでは、オリジナル盤のジャケットに似た暖炉の前に、レコードジャケットやハイヒールが散らかっている。そのレコードの一枚は、このオリジナル盤だ。暖炉の前から去った二人と、燃えさかる暖炉の炎が、Falling in Love is Wonderful な時の経過を演出しているわけだ。オリジナルジャケットデザインが使えないことをアイディアに変えた、凝ったデザインだ。
パチパチパチ(拍手)


COLLECTION



■DOROTHY DONEGAN[Swingin' Jazz In Hi-Fi]Regina


■ JOHNNY HARTMAN[JUST YOU, JUST ME...]REGEND


■ Marty Napoleon/Mickey Sheen/Chubby Jackson[WE 3]EVEREST RECORDS


■ MANNY ALBAM[DOUBLE EXPOSURES]TOP RANK


■ LES AND LARRY ELGART[SOUND IDEAS]COLUMBIA


■ [THE UNFORGETTABLE FIFTIES !]CSP(再発盤)


■ BODDY MORROW[Let's Have a Dance Party !]RCA CAMDEN(再発盤)


■ JERRY FIELDING[SWINGIN'IN Hi-Fi !](再発盤)


■Demonstration[Music to Live by]Meacury


■ WOODY HERMAN[Song for hip lovers]Verve(再発盤)


■[An evening with The Honeydreamers]RKO


■THE RUBY BRAFF MARSHALL BROWN SEXTET UNITED ARTISTS


■[MEMORABLE HITS from "S-BAN" HOUR VOL. II]VICTOR


■ BARNEY KESSEL[MUSIC TO LISTEN]CONTEMPORARY


■ TONY SCOTT/BILL EVANS/GENE QUILL/DICK GARCIA[the Hi-Fi LAND of JAZZ]SEECO


■ YEHUDI MENUHIN/STEPANE GRAPPELLI/ALAN CLAR Trio [JALOUSIE]EMI ELECTRIA


■ THE TNITA KERR QUARTET[Voices In Hi-Fi]DECCA


■ EDDY MANSON[THE FI IS HI]ViK


■ COUNT BASIE and more[A DEMONSTRATION OF DYNAMIC STEREO]ROULETTE


■ SHAY TORRENT[sound spectrum]Mercury

更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26