不具合

2009年6月30日

リコール願望

制作スタッフのひとりが テレビCМの撮影現場で「自宅のMac Bookが壊れちゃって、データがぜんぶパーになっちゃったんですよ」とぼやいていた。本来ならなぐさめるべきところを「えーほんとぉ!画面にサッドマックみたいなのが出たりした?」などと嬉々として質問してしまった。謝ると「話をした皆、ほとんど同じ反応だったから別に気にしませんよ」。データのバックアップを怠っていたわけで、今やこういうトラブルではだれも同情しない。
ちなみに「サッドマック」とは、OS9以前で動いていたMacが完全に壊れると画面に登場する、目が「××」になったMacのキャラ。フリーズすると「爆弾マーク」がでた。このサッドマック、iPodでは現役で活躍中?らしい。
電気製品には当たり外れがあって、何の故障もなく10年以上使用できるのは「アタリ」。一年もしないのに故障するのは「ハズレ」。だが、パソコンが普及するにつれ、なにをもって故障と言えるのかが、にわかに怪しくなってしまった。ソフトウエアとの相性やハードディスクの耐久性不足による故障がほとんどだからだ。パソコン自体は壊れていなくても複数インストールしたソフトとの相性が悪いと、パソコンは動かなくなる。ハードディスクが壊れても動かなくなる。だが、ソフトをアンインストールしたり、ハードディスクを交換してOSをインストールし直せば、パソコンはたいてい息をふきかえす。昨年のコラム「壊れる」で紹介したPower Macの故障は、本体の故障でマザーボードが交換されて帰ってきた。「ハズレ」だったわけだ。

以前、居住しているマンションの設備機器のひとつ、BOSH製のビルトイン型食器洗浄器がリコールされたことがある。修理してもらったが、当方の食器洗浄器は物置と化していたので、どこが不具合だったのか今も不明のままだ。パナソニック(ナショナル)製の石油ファンヒーターや、リンナイ製の給湯器のリコールは、死亡事故が発生しているので、企業責任として当然のリコールである。
先日、古新聞を整理していて気になるチラシに目がとまった。赤ベタ帯に「発煙・発火のおそれ/遠赤外線ヒーターの回収にご協力ください」というタイトル。私はひとり暮らしの時代から、ストーブはずっと遠赤外線タイプを使いつづけている。独り住まいのマンションであわや失火ということがあってからだ。ある夜、帰宅するとドア越しに寝室全体が赤黒く浮かびあがっていた。あわてて部屋に入ると、窓際に置いたストーブにカーテンが接していて、少し焦げていた。帰宅するころスイッチが入るようタイマー設定していたのだ。
たまたま遠赤外線タイプだったため、発火せずにすんだ。普通の電気ストーブだったらアウトだったと思う。それ以来、新規購入する電気ストーブは遠赤外線タイプときめていた。その、安全な遠赤ヒーターがリコールされたのだ。チラシには見覚えのある機種が並んでいて、すぐに現用のものがリコール対処と分かった。以前使用していた機種もある。使いはじめて10年以上経つはずだが、事故が起こらなくて良かった。回収にやってきた業者は、当該機器と引き換えに封筒に入った現金二万円と領収書を差し出し、ハンコを捺すよう求めた。ハンコを引き出しからつまみあげながら、なんだか得したような庶民的感覚を味わうこととなった。

私のような粗忽な人間は、あたりまえのように取捨選択に失敗をくりかえしながらズルズル生きている。しかもそれを後悔して引きずって病気になったり、なかったことにするためにお金がかかったりもする。ならば、車や電気器具の不具合のように、人間関係に「不具合」がでたらリコールできるようにしたらどうだろう。たとえば結婚制度に「できちゃった婚」を除いてリコール期間を制度化したら、結婚を躊躇している人たちの後押しにならないだろうか。ならないか。


更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26