「ジャズオーディオ・ウェイク・アップ」山口 孝

2008.10.12

これ一冊で、ジャズとオーディオの楽しみ方がいっぺんに分かる!


だいぶ間があいてしまったけど、二冊目をご紹介。
二冊目は「ジャズオーディオ・ウェイク・アップ」。音楽評論家「山口 孝」氏が、自身が担当していたCSデジタル放送ミュージック・バードの番組で放送した内容を本にまとめたもので、出版社は、アマチュアオーディオ自作雑誌「MJ無線と実験」を出版している誠文堂新光社。ジャズという音楽ジャンルのディスク再生を通じて、ジャズの楽しみ方のエッセンスや、オーディオでより良い音を追求することの意義や芸術性を真摯に説いている、熱い厚い本だ。


書 名:ジャズオーディオ・ウエイク・アップ
著 者:山 口 孝
発行所:誠文堂新光社

前回同様、目次を転記してみる。

 1.ジャズオーディオとは
 2.トランペット アイアン・リップ
 3.千葉県稲毛 ジャズ喫茶「CANDY」店主 林美葉子
 4.ギター 鬼のピッキング
 5.ダイナミック・オーディオ オーディオ・アドバイザー 厚木繁伸氏
 6.ドラムス エネルギーの放射
 7.NRPレコード主宰 オーディオ評論家 亀山信夫氏
 8.ベース 肺腑をえぐる強力なビート
 9.音楽・オーディオ愛好家 腹夏郎氏
 10.ピアノ 鍵盤を打ち抜くタッチ、サウンドするピアノ
 11.レイオーディオ主宰 芸術オーディオ提唱 木下正三氏
 12.サックス 音の輪郭
 13.音の力 岩手県一関 ジャズ喫茶「ベイシー」店主 菅原正二氏



音楽に関係するいろんな分野のゲストを招いて、もしくはゲスト宅へ伺っての対談が多いのが特徴で、最後の13章だけは「ステレオサウンド」誌での対談記事。
山口氏がどれだけオーディオの知識を持っているのか、経験があるのか、造詣が深いのかよく知らないが、ジャズについての博学・愛情は、最初の一章を読んだだけで浴びるように味わうことができる。一章「ジャズオーディオとは」の内容は、1.衝撃と感動、2.スウィング、3.色彩・ハーモニー・テクスチャー、4.ダイナミズム、5.突出性、6.ジャズオーディオの王道を行く近年の理想の一枚、7.ジャズオーディオの未来形、という見出しで語られている。この一章を読んだだけで、オーディオとジャズという音楽の楽しみ方のひとつが分かる、すばらしい情熱だと思う。もちろん台本は用意されていたと思うが、対談でこれだけ熱く突っ込んだ会話を残せるのは驚くばかり。


この本、各章の途中に「♪」マークがある。番組中に紹介、プレイバックされた曲を示している。CDブックのように、それぞれ取り上げた曲が聴ければいいのだが、残念ながらそこまで踏み込んだ編集はされていない。数えたら98のジャズアルバムが紹介されていた。スライドピアノやスイングの時代からフリージャズ、ラテンジャズ、ボーカル物、ソロピアノなど多種多様。その中には大名盤もあれば超マニアックなアルバムもある。私がすでに聴いていたものはその中の半分くらい。とうに手放したものもある。未聴アルバムの何枚かはこの本を読んで聴きたくなって購入したりもした。ただ正直言って、ここで紹介されたジャズアルバムすべてを好意的に受け入れられたとしたら(ある意味趣味が広いとも言えるわけだが)、それはかなり支離滅裂な嗜好なんじゃないかとも思う。ジャズ音楽愛好者の趣味性はたいていかなり狭いもので、同じジャズのジャンルで分けられていたとしても、好き嫌いはものすごくはっきりしているはずだ。山口氏の感性を否定する気はさらさらないが、どんなにオーディオのパフォーマンスが高くとも、音楽の嗜好までは変えられないと思っている。


これは私の持論だが「ダメなオーディオ機器で再生するのは、アーティストに失礼だ」と思っている。ちゃんと再現されない装置で聴くと、そのアーティストを誤解して聴いてしまうことがあるのだ。オーディオをやっていての至福は、オーディオの再現グレードが上がったことで、好きなアーティストの凄さや魅力がさらに深まり、これまで良しとしていなかったアーティストの素晴らしさが発見できたりしたときである。逆に、再生グレードが上がったことで、アーティストのパフォーマンスの粗が浮かび上がってしまったりして、がっかりすることも仕方のないことだ。


この本の中でも同様の主張がたびたび出てくる。たとえば「12.サックス 音の輪郭」ではこんな具合だ。(以下、山口氏の発言/転載)
『よくジャズ評論家が、アルトをテナー、テナーをアルトと平気で書いています。それは、うまくオーディオが鳴っていない証拠であり、バリトン・テナー・アルト・ソプラノの区別さえつかないことが、よくあります。それは、ミュージシャンが、テナーなのにアルトのように吹こうとしたり、その逆というように、楽器そのものの呪縛から自由になり、自分の言葉で語ろうとする、ジャズ特有の衝動故だということもできます。』


最後にオーディオをやることの、ひとつの名回答であり詭弁かもしれない一説をご紹介しておく。最後の章「13.音の力」で語っている、知る人ぞ知る、日本でいちばんいい音のジャズ喫茶(もうそんなにたくさんジャズ喫茶があるわけではないが)と言われている、岩手県一関「ベイシー」オーナー菅原氏の発言だ。
『 〜 本当のことを言うと、音だけで感動するというのが、一番レベルの高いことだと信じている。バーと来て、「参りました」という感じ。フィリー・ジョー・ジョーンズのスネアのリズムショット一発が凄いというのは、実は、音そのもののことだ。だから、もし、それを縮小サイズのスピーカーで聴くと、フィリーはフィリーなのだが、そのバスンという音で、のけぞることはできない、ぼくは、64年の来日時、生でその音にのけぞっているので、額面通りのその音でのけぞりたいという気持ちが持続し、今の装置に至っている。』
『 〜 何だかんだと学問して、本で勉強したジャズなどはたいしたものではない。知れたものだ。むしろ、音一発で、ひっくりかえるような人が、以外(意外の誤植だと思う/瀧田)とジャズの核心にたどりつける。その部分を生きるというのが、ジャズオーディオだ。』
『 〜 音そのもので感激できない人は、案外、音楽のあるレベルまでしか解っていない人の可能性がある。一概には言えないが、少なくともジャズにはそういう所がある。音だけでイッてしまう人の方が、経験を積んでいくと、音楽のもっと高い所を感じることができるかも知れない。二〇世紀の録音史と並走したオーディオの発展とは、そういうことでないかと、秘かに思っている。』


どうでしょう、オーディオやっているオタクオヤジの戯れ言でしょうか。

読みごたえ ★ ★ ★ ☆ 
マニア度  ★ ★ ★ ★ ★
役立ち度  ★ ★ ★ ★ ☆
おすすめ度 ★ ★ ★ ★




更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26