「ジャズ小説」筒井 康隆

2009.6.10



巻末ディスク情報だけでも面白い




ジャズをテーマにした「筒井康隆」氏の短編集。1996年初版。巻末にはストーリーに登場したジャズアーティストや曲にちなんだレコード紹介が35ページにわたって、アルバムジャケット入りで解説されている。


書 名:ジャズ小説
著 者:筒井康隆
発行所:文芸春秋


目次を紹介する。


ニューオリンズの賑わい
葬送曲
はかない望み
ソニー・ロリンズのように
ラウンド・ミッドナイト
懐かしの歌声
恐怖の代役
陰謀のかたち
チュニジアの上空にて
ムーチョ・ムーチョ
ボーナスを押さえろ
ライオン


巻末付録 ディスク情報

冒頭の「ニューオリンズの賑わい」は、ジャズマニアの夫婦が、タイムマシンで1916年のニューオリンズに降り立つ、という筒井康隆らしいSFジャズネタショートショート。どの物語りにもそんなジャズミュージシャンやジャズマニアなどが登場する。中にはSP蓄音機がテーマになったお話もある。私自身ブックオフで手に入れたので偉そうなことはいえないが、あっというまに読める軽い一冊。ジャズをテーマにしても、すべてちゃんと筒井ワールドなのはさすが。ジャズを知らなくても気軽に読めるが、それなりにジャズを知っていれば、氏のジャズへの造詣の深さを知ることもできる。特に巻末付録のディスク情報は、やっぱり小説家が書くとおもしろい。知識や情報を交えていても、文章がちっとも知ったかぶらない。このディスク情報の文章を読むと、レコード(CD)を聴きたくなる。というか、本編の短編小説よりも、こっちのほうがおもしろい・・・。

たとえばこんな具合。

チェット・ベイカー、アート・ペッパー
"Chet Baker & Art Pepper"


 白人ジャズマンの麻薬中毒、二大巨頭のそろいぶみです。二人とも若い頃は役者と見まがうよい男だったが、薬のおかげであわれや四十代ですでに見るかげもないヨボヨボ状態、アッとおどろく卒塔婆小町となりはてます。ベイカーにいたっては、ヤクのトラブルから歯を全部ヘシ折られ(トランペッターにとっては致命的)ついにはアムステルダムのホテルの窓から落ちて死んでしまいました。
 ペッパーは晩年、日本のファンの熱狂的な支持を得て、それを生き甲斐にがんばって、タタミの上で往生をとげています。この録音は二人がまだ元気ハツラツ時代の傑作です。


読みごたえ ★ ★ ★ ☆
マニア度  ★ ★ ☆
役立ち度  ★ ★ ★
おすすめ度 ★ ★ ★ ★


更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26