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カスタマイズ・エクスタシー


イヤ〜ンホンと!


左のカートリッジ、超有名製品に手を加えたものだが、このカートリッジの製品名を答えられるだろうか。もし分かったら「超オーディオマニア」の称号を授けちゃう。
正解は「オルトフォン SPU Meister Silver MKII 」。オリジナル製品(写真下)のシェルからカートリッジ本体を取り外して、SAEC製のオルトフォンSPU専用スペーサー「OF-3b」を介し、汎用シェルに取付けたものだ。ortofon SPUのカートリッジ本体は、上面のシェル接地部に、傾斜のついた凸型の出っ張りがある。汎用シェルに取付けるためには、逆の傾斜と凹型の溝をつけたスペーサーが必要なのである。昔はこんなマニアックなアクセサリー商品があったのだ。オリジナルシェルを脱がせたとたん、SPUが現代的な音色の高性能広帯域カートリッジに変身する。シェルを取り除くと、あの、よく言えばぶ厚い再生音は、シェルの鳴き(共振)がカートリッジ本体にフィードバックしたことによる、濁ったメタボな音なのだと分かる。ortofon SPUの音はシェルの共振音が味付けになっているのである。シェルでカートリッジを覆ったうえ、針穴の開いた蓋で閉じてあるのだから、シェルの鳴きが悪影響するのは当然といえば当然。振動が再生音に及ぼす影響が明らかになった今日のオーディオでは常識だ。
オリジナル製品に手を加える行為は「カスタマイズ」といわれる。このカートリッジのカスタマイズは、製品の性能をアップさせるためにした。ほかに、見栄え(デザイン)を自分好みにするためのカスタマイズも一般的だ。生まれて初めてのカスタマイズ行為は、たぶん小学生のころの「めんこ」だったと思う。表面に蝋を塗って重くしたり、エッジを固めたりして、裏返りにくくした。カスタマイズは、カスタマイズする製品自体のポテンシャルを上げるために行う行為であるから、元々性能がよい製品でなければカスタマイズする価値はない。カスタマイズによってそこに強い趣味性が生じ、製品への愛着が深まり、ホビーとしての愉しみがさらにひろがる。最近のデジタル商品には、こうしたカスタマイズができる製品がほとんどない。
多くのジャズミュージシャンが演奏していることでもよく知られている、オードリー・ヘップバーン主演のミュージカル映画「マイ・フェア・レディ 」は、女性が対象の「カスタマイズ」をテーマにした映画という見方ができる。カスタマイズは男性が好んでする行為だということかもしれない。好事家による「調教」なんてのも、男が女にという図式が一般的だ。男性の所有欲求ということと関連しているのか。Wikipediaによると「マイ・フェア・レディ」の原作、ジョージ・バーナード・ショーによる戯曲「ピグマリオン」は、「ピグマリオン効果」という教育効果のことで、それをもとに映画のストーリーがつくられているそうだ。「人間は期待されたとおりに成果をあげる傾向がある」というアメリカの教育学者ロバート・ローゼンタールの実験によって定義された結果なのだという。好かれている(期待されている)異性にいいところを見せようとガンバル、なんていうのはたいていの人がふつうに体験してきていることだから、べつに実験するほどのことでもないと思うが、やっぱりそれなりの成果をあげるには、それなりの素質がないと難しいことは、これまた誰もが経験しているはずだ。
さて、ここからがこのコーナーの本題である。最近遅まきながら「iPod Touch」を手に入れた。音楽を外で聴きたかったからではなく、iPhoneを購入するつもりでやめた結果である。もともとそんなに携帯電話を活用する方ではないし、インターネットを外で利用するのが主だったため、高額な月額使用料を、たいして使わないのに支払うのはMOTTAINAI。Wi-Fi通信ができる場所は限られているが、繋がったときの快適さは格別である。
その「iPod Touch」で音楽を聴くためのイヤホンを「カスタマイズ」した。巷にはヘッドフォン、イヤフォンが膨大な種類出回っている。1,000円しないものから10数万円のものまで、ずいぶんな値幅がある。1,000円の音と10万円の音が100倍違うかといえば、そんなことはぜったいない。趣味の世界ならではの価格差である。
左上の写真のイヤホン、いわゆるカナル型といわれる KOSS社製「THE PLUG 」という¥2,000円もしない廉価品である。この製品の黒いイヤーピースは、騒音防止の黄色い耳栓と同じ低反発の発泡スポンジ。指でつぶして耳に入れるとジワーと広がり耳穴に密着する、普通の耳栓とまったく同じだ。このイヤホン、低音がブカブカと盛大に出る。だが、けっして素性は悪くない音だ。この製品のシンプルな構造に目をつけた誰かが「カスタマイズ」をはじめたのだ。簡単なものでは、口径が合うソニー製の別売りイヤーピースに交換するのが一般的。だがこれは、オリジナルの低反発タイプのイヤーピースの使用感が気に入らないユーザーがやるカスタマイズ。
我々オーディオマニアがやるカスタマイズは音質改善に尽きる。このイヤホンの音は、ブーミーな低音をうまくコントロールすれば、かなりいいはずなことは、耳のいい人なら分かる。
三協特殊無線株式会社という秋葉原に店舗をかまえる会社が、この「ThePlug」用の音質改善パーツを開発、販売している。商品名「KOSS THE PLUG ST-COM SPECIAL EDITION KitⅡ」、価格は¥1,500円。「ThePlug」がamazonで¥1,800円くらいだから、このカスタマイズパーツと合計して¥3,300円のイヤホンより音質が良くなければならないということになる。KOSS社のプロフェッショ
ナルユースのシリコン製イヤーピース3種と真鍮製音響導管チューブ、軟ナイロン製耳掛けフックがセットされている。「ThePlug」に取付けたのが左の写真だ。オリジナルの黒いイヤーピースを抜き取り、本体に音響導管として差し込まれている黒いビニールチューブを取り除く。そこへキット付属の真鍮製音響導管チューブを差し込み、耳掛けフック、自分の耳に合うイヤーピースを取付けるだけ。誰にでも15分もあればできる。私の購入した「ThePlug」は真鍮製音響導管チューブをつけると少し緩かったので、本体の導管部分にセロテープを5ミリくらい巻き付けてから真鍮製音響導管チューブを取り付けた。
結果すばらしく音質が改善した。バランスがよく、クセがなく聴き疲れしない音だ。野放図だった低音も、きちんと楽器の低音になっている。廉価なイヤホンには、高音や低音をイコライズしてドンシャリした、いかにもイヤホンという音のものが多いが、これはまったくもって3,000円ちょいの音ではない。数年前に高級イヤフォンブームの火付け役となった、ER-4 microProという¥20,000円する機種を所持しているが、だんぜんこの「マイ・フェア・ホン」の音がイイ。普段自宅のオーディオシステムで聴いている音色に似ているのもうれしい。カスタマイズついでに、本体後ろにレゾナンスチップをつけてある。気休めかもしれないが、見た目は悪くない。音もよいが、このカスタマイズキットに付属の耳掛けフックも気に入った。装着にはちょっと手間がかかるが、耳穴への密着度が増し、電車内などでもノイズキャセリングヘッドホンなど不要なくらい、エクスタシーな再生音を耳穴にグリグリ運んでくれる。密閉型なので、公共スペースでもエクスタシーがモレる心配はありません。
ちょっとマニアックだが、お勧めできる製品でありカスタマイズである。3,300円で高音質エクスタシーを味わえます。エクスタシーオーディオは、価格と音質の実態が乖離していればいるほど、エクスタシーが深まるのだ。


更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26