アクセサリー・エクスタシー

2007.11.18

「オーディオ・アクセサリーは大人のおもちゃ?」

■魅力的なオーディオ・アクセサリーを次から次へと発売している「ACOUSTIC REVIVE」社のアクセサリー製品のひとつ「ディスク消磁器RL-30」。レコード盤・CD・ケーブル類を入れて、帯磁を取るアクセサリー。それなりに効果があるアクセサリーだったが、設置場所の確保ができなくなり、オークションで手放した。


「メイドカフェ」「フィギュアショップ」「おでん缶詰め」などなど、かつて電気街といわれた秋葉原界隈のオタッキーな変容については、テレビや雑誌などで広く紹介されている。高校生の時代から、毎日のように秋葉原をうろついていた私にとっては、その変貌ぶり、奥の深さに、寂しさを通り越して感動すら覚えてしまう。
私事だが35年ほど前、美濃部亮吉さんが東京都知事で、高卒の初任給が3万円に届かず、まだ秋葉原が電気街として隆盛を誇っていた時代。地方公務員だった20歳の私は、一念発起、美術大学への進学を決意した。そのとき自分に課した条件は「3回受験してダメだったら、秋葉原石丸電気のレコード売場へ再就職しよう」だった。毎日秋葉原へ通えるし「きっとレコードを社員価格で買えるのではないか」というだけの理由だけれど、それくらい秋葉原を愛していた。
さて「おたくの聖地」と化したこの秋葉原に、マスコミでは紹介しにくいジャンルのショップが増殖しているのをご存じだろうか。「アダルトショップ」である。一昔前なら、浅草とか池袋、新宿あたりの、飲み屋やキャバレーなど立ち並ぶ歓楽街の路地裏にひっそりと、しかしケバく店を開いていたものだが、今や秋葉原の大通りで、堂々とパソコンショップや電気屋と肩を並べているのである。
大小さまざまな店があるが、中でも目立つのは、中央通り沿い、オノデンの隣に堂々とそびえる「ラブメルシー」と、秋葉原駅高架の傍、シントクの向かいにある「m's」だ。どちらもビル一棟まるごとアダルトグッズを売っている。フロアごとにジャンルを分けて、隅から隅までピンクや黒など、ケバイ色彩のグッズで埋め尽くされている。そんな中をたくさんの若いカップルが、楽しそうに品定めしているのだ。まさに隔世の感あり。
「アダルトグッズ」は、オナニーやセックスをより楽しみ、エクスタシーを深めるために使うセックス・アクセサリーと定義できる。オーディオ・アクセサリーも同じように、よりオーディオを楽しみ、より良い音楽を味わうためにある。オーディオ・アクセサリーのもっともポピュラーなものは、ラインケーブル・スピーカーケーブルなどのケーブル類だ。雑誌「AUDIO ACCESSORY」誌には、PADというメーカーの1.4メートル100万円!!越えのスピーカーケーブルなんていうのが紹介されていたりする。オーディオを趣味にしていない人が聞いたら狂気の沙汰だ。いったいどこのバカが、じゃない、金持ちが買い込むんだろう。その下品な顔を見てみたいものだ。
だいぶ前だが、テレビ朝日の「タモリ倶楽部」で、電源ケーブルの音質テストをテーマにしたことがある。最初は半信半疑だった出演者達も、その音の違いが分かると面白がっていた。ただし、電源ケーブルは切替えスイッチによるAB切替え試聴はできない。ケーブルの素性の説明をしながら差替えての試聴だったから、試聴のタイムラグと先入観もかなり影響していたはずだ。
「AUDIO ACCESSORY」誌の試聴記事ページを繰ると、「一聴してその違いが歴然と分かる」というようなオーディオ評論家の記事がそこいら中にちりばめられて、読者の購買意欲を掻き立てている。当然のことながら「AUDIO ACCESSORY」誌のような商品テストを売りにしている雑誌は、取り上げるアクセサリー製作企業・販売会社の出す広告収入で成り立っているから、出稿スポンサーの製品を酷評するわけがない。
ケーブルを替えることで、音が変わることを否定しないが、たとえばケーブル一本で、そんなにドラスティックな音質変化があるものだろうか。もし「一聴してその違いが歴然と分かる」ような劇的変化があるとしたら、それは試聴システムがかなり脆弱なモノだといえるかもしれない。
試聴というものは、本来ブラインドテストでなければ、ほんとうの客観的なテストはできないものだ。薬の治療効果をテストするときに、本物を投薬するグループと、偽薬(プラシーボ)を飲んでもらうグループを必ず設けるそうだ。プラシーボを与えられたグループの中に、なぜか治療効果が表れる患者がでるそうで、プラシーボ効果と呼ばれる。アクセサリーグッズの試聴でもそのやり方によっては、偽薬と同様のプラシーボ効果が影響するはずだ。また試聴したとき、音量に差があると、音が大きい方がほぼ間違いなく良い音と判断される。試聴テストでの音の比較というのは、その程度のいいかげんなものだ。
私はオーディオ・アクセサリーの多くは「気のせいグッズ」であると思っている。それなりの出費をして導入したのだから、音が良くなってくれないと困る、という気持ちが先入観となって違って聞こえるのだ。もちろん、ドラスティックな音質変化をもたらすアクセサリーは存在する。このコラムで紹介している「OZOMU」「OTONOSYO」などは、その代表例だ。
実はアダルトグッズも、その多くは実際に使ったことによる快感以前の代物だと思う。なんともエロティックな色形の張形(古い!)やバイブやらを手にしただけでも、それなりに気分を高揚させることができる。だが、それらのアダルトグッズの中にも、ほんとうにエクスタシーを増強させてくれるようなアイテムがあるに違いない。要は、アダルトグッズもオーディオアクセサリーも、いろいろ使って試してみて、ほんとうに「エクスタシー」が得られるものを、自分(相手)の聴力(身体)で確かめるしかない。選択の失敗は授業料と考えて、効果がないと判断したものは、さっさと手放すに限る。ま、いいセックスも、高音質も、金に飽かせば手に入ると考えているような品のない輩は、なにを使ったところでエクスタシーを味わえるはずもない。

更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26