レコードジャケット・ エクスタシー〈1〉

2008.1.15

最近「カミングアウト」することが流行っているらしい。テレビでは「秘密のケンミンショー」という番組で、それぞれの地方の知られざる習慣や慣習、特殊な嗜好などを面白おかしく取り上げている。タレント本では暴露ネタが物議をかもしているし、多くのタレント達が自分の性癖などを深夜のバラエティー番組で告ったりしている。実は最近、うちのカミサンも「カミングアウト」をし始めて、夫の私は戸惑うばかりなのだ。
「わたし本当は家事とか大嫌いなの」とか「わたしは怠け者だから」とか、おいおい、いまさらそんなこと言われても返す言葉もないぞ。唯一、変な性癖について「カミングアウト」されていないことだけが救いだ。
そんなわたしもちょっと「カミングアウト」してみようと思う。私は「下着フェチ」である。「透けものフェチ」と言い換えてもいい。繊細で美しく、はかなげなレース生地から透ける女性の肌にエクスタシーを感じるのだ。おお!こういう告白をすると、なんだか気持ちが軽くなるな。断っておくが、頭に被ったり自分で穿いたりする趣味はまったくない。
文献によると、日本女性で西洋式下着(下ばき)を穿く人が出はじめたのは戦後のことで、デパートの床を清掃をすると、すごい量の陰毛が採取されたそうだ。「粋な姉ちゃん立ちしょんべん」だったわけだ。したがって昔の人には下着フェチなんていなかった。いや、腰巻きフェチの江戸っ子ぐらいは、いたかもしれない。
そんな性癖の私が、中古レコード屋へ行って買い込むのが、下のようなレコードだ。
■「soft and sweet」というこのレコード、ちゃんと「RCA Victor」だし、ちょっと中身も期待したのだが、単なるイージーリスニングだった。


このレコードは、吉祥寺の中古レコード屋で見つけたものだが、手に取った瞬間、うっとりと目を細めてしまった。フェティストにとっては、その琴線に触れられれば、レコードジャケット一枚でもエクスタシーを感じることができるのだ。ハイヒールフェチの人は、靴屋のウインドウの前でうっとりできるし、ラバーフェチの人は、湿気の多い梅雨時にゴム長靴・ビニールレインコート姿で闊歩することを夢想している。
私はアートディレクターという仕事をしているが、まだCDが存在しない時代、レコードジャケットのデザインをしていたデザイナー達は、ちょっとしたアーティスト気取りだったようだ。たしかにレコードジャケットにアンディ・ウォーホールのイラストが使われたり、キリコの絵が使われたりと、レコードジャケットの31センチ角のスペースにはアートな匂いがしていた。レコードジャケットデザインにレコードコレクターはエクスタシーを感じる。たかだか13センチほどのCDジャケットではこのエクスタシーはぜったいに味わうことはできない。紙ジャケCDなんていうのもあるが、薄いから収納に便利なだけで、レコードジャケットには足下にも及ばない。
■「PLAYBOYS」
CHET BAKE & ART PEPPER SEXTET
どういうコンセプトで、感性で、こういうデザインが生まれるのか、まったく伺い知れない、なんとも奥深いジャケットデザインだ。ジャケ買いオーラがプンプン放出されている。
内容は、ウエストコーストジャズの良いところが凝縮されたような、すばらしい演奏で、全曲いい。録音もいい。


更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26