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EP盤エクスタシー

2008.3.2

私は、喫煙という行為を生まれてこのかた一度もしたことがない、まれな男である。といって特に意志が強かったわけではなく、煙を吸い込む行為自体に気持ちの悪さを感じただけのことだ。「タバコを吸う=大人ぽい」という気分にもならなかった。見つかったらたいへん、というただ臆病なだけだったのかもしれない。
全面禁煙となったJRの駅。ホームの端に設置された喫煙スぺースには、プカプカ煙を吐く喫煙者が絶えることがない。みんなタバコの依存体質なわけだ。タバコのほかにも人が依存する対象は、酒・麻薬・ギャンブル・セックスなどさまざまだが、政治家や会社組織における派閥関係とか、ヤクザの契りとか、世の中は実はすべて成熟した依存関係で成立している、という説もあるようで、依存することのすべてが排除されるべきこととは言えないらしい。
タバコも吸えない私には、典型的な依存体質はないのだが、唯一「買い物行為」をしないと欲求不満が溜まってしまうという依存的な嗜好がある。ストレス解消の最大の手段はバーゲンセール。バーゲン会場で小一時間あれこれ物色、試着したりすれば、何も買わなくても満足できてしまう。
そんな買い物行為が爆発したアナログレコード蒐集は、数年前、潮が引くように終息していったのだが、その理由は飽きたからではなく、子どもの成長とともに、収納スペースがおおきく失われてしまったからだ。厚さ数ミリのレコードだが、2,000枚以上も集まると、狭いマンション住まいでは邪魔者扱いされる。
レコード探しに飽きたわけではないので、時々買い物欲がふつふつと湧く。その依存的な欲求を満たすための自分勝手な理屈付けは「小さなレコードを買えばいい」だった。なんだか、アルコール依存症の人が、ジュースそっくりのパッケージの缶酎ハイをこっそり飲んでるみたいな、せこくていじらしい発想。
小さなレコードとはEPレコードのことである。今でいうならシングルCDということになる。オートチェンジャーにかかるように大きな穴を空けてあるので、ドーナツ盤の愛称もある。LPこそがアーティストの表現したいコンセプトを表している、とEPレコードには見向きもせずに、40年近く過してきたわけだが、このEPレコード、すごいのだ。EPレコードはシングル盤で、その再生スピードは45rpm 。だからすごく音が良いのだ。気がつかなかった!
■美空ひばりの「都々逸」。モノラル録音だが、三味線や横笛のエネルギー感、唄声の艶やかさは、驚くほどだ。同じ曲が収録された10インチ盤「ひばり端唄草紙」
33.1/3rpmも入手したが、EP盤の方がだんぜん音が良い。


「レコード・エクスタシー」のページでも触れたが、今高音質を謳ったプレミアムレコードがたくさん発売されている。その多くは180g重量盤であるが、中には45rpm重量盤というのもある。その高音質レコードと同じ45rpmなのだ。EPレコードは薄っぺらで軽いが、45rpmの恩恵はすごく、特に昔のモノラルEP盤の音は、それはびっくりするくらい鮮烈でエネルギー感に満ちている。
■美空ひばり「ひばりの佐渡情話」
/ザ・ピーナッツ「月影のナポリ」


■ザ・ピーナッツ「恋のバカンス」
/北村英治「黒い傷あとのブルース」


さらに嬉しいのは、この時代に発売されたEP盤はジャケットデザインも秀逸なこと。ジャケットといってもLP盤とは違って紙切れ一枚だが、このサイズならではの軽妙なデザインばかりだ。
もちろんEP盤だって何百枚も集まれば、それなりに収納にも頭を悩ますことになるのだが、ちょっとだけそれを先送りできる。しばらくは EP盤集めは終息しそうにない。

更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26