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指先エクスタシー

2008.7.15

「不器用」じゃエクスタシーは味わえない?

左の写真の人物は私の父、ではない。古くからオーディオを趣味にしている人ならたいてい知っている、オーディオ評論家 江川三郎氏である。1932年生まれというから、70代。オーディオの歴史みたいな人だ。旺盛な好奇心をもって、雑誌やイベントなどでオーディオのあたらしい提案を続けている。
江川氏の影響がオーディオ業界でいちばん発揮されたのは「ケーブルで音が変わる」発見だ。ケーブルには方向性があり、ケーブルの向きを入れ替えるだけで音が変わるという。この発言をした1070年代は「そんなバカなことがあるか」ほとんどが批判的だったらしい。現在ではケーブル芯線の材質や被覆材質、構造も音を変えるということで、芯線に主に使われている銅線では、7N・8Nなど純度を競っているし、他にも銀線や金合金などさまざまな素材でケーブルがつくられている。中には1メートル100万円なんていう、狂気の沙汰のようなものもあり、いまではオーディオアクセサリーの代表格となったケーブルだが、その音質変化の科学的根拠は未だに何ら解明されていない。(リンクサイト「オーディオの科学」内/オーディオの物理学「スピーカーケーブル」を参照) だが、音が良くなるか悪くなるかは別にして、確かにケーブルを替えると音の変化はある。江川氏自身、自分のサイトで「無方向ケーブル」というのを販売している。
江川氏のクラフトオーディオのアイディアはとどまるところがなく、いつも新鮮なネタをオーディオ雑誌に載せている。正直言って、本格オーディオを志すマニアにとっては、求めているエクスタシーの質がちょっと違っているのだが、本格オーディオエクスタシーを味わうためにも応用が利くアイディアはたくさんある。私もいろいろと江川流を試している。そのうちのいくつかは非常に効果的で、今も使いつづけている。
はじめに紹介するのは「逆回転レコードクリーナー」(左二枚目以降の写真)。通常右回転するレコードを逆に回転させ、レコード針でレコードの溝に入り込んだ汚れを掻き出すというものだ。江川氏が雑誌に紹介したものは、小型モータを使って小さなアクリルターンテーブルを取付け、レコード盤を逆回転させるというホビー性の強いものであった。
私はそんな面倒なことはしたくなかったので、手持ちのソニー製リニアトラッキング・ポータブル・レコードプレーヤーPS-F9(左上の画像/ソニーサイトのアーカイブ画像を使用)を逆さまにして逆回転を得るというアイディアを思いついた。シナベニヤ合板でベースをつくり、トーンアームは使っていなかった手持ちのSME3012を使用。
自作のアルミ三連シェルにシュアーの安いカートリッジを三つ付けて効率化を図った。出来上がったときは、その出来栄えやアイディアに自画自賛したが、残念ながらさしたる効果は得られなかった。もともとそんなに汚れたレコードを持っていないこと。バキューム式の本格的な電動レコードクリーナーを導入したこともあり、お蔵入りとなった。
(画像クリックで拡大表示)


現在も私のシステムで使っている江川流の代表は「戸澤式吸音レゾネーター」だ。これは通常スピーカーボックス内部に使われるグラスウールなどの吸音材に替わって、紙で作った三角風船のようなものを使って、音を紙の振動に変換するというもの。芦澤氏が発明したものを、江川氏が雑誌で取りあげて話題になった。
紹介している画像は以前使っていた音研タイプのボックスに入れているものだが、現在のボックスにも同様に入っている。銀座伊東屋の和紙売場で見つけた、かなりコシのある長い繊維が練り込まれた高級和紙で、一辺30センチ程のテトラパック
型のレゾネーターをつくった。正直、このレゾネーターの効果は絶大だと思う。芦澤式レゾネーターは小型のものが秋葉原のコイズミ無線ほかで販売されている。
このほかにも、100V電源を減圧して音質向上を図るという「江川式ステップダウントランス」(以前使っていた)とか、制振合金M2502(私の自作アンプに使っている)とか、一度使ってみて効果を試したくなるアイディのホビーアアクセサリーをたくさん開発している。
器用に指先を使って、オーディオアクセサリーをつくることで味わえるエクスタシーもバカにならないのだ。器用さとマメさは、あらゆるエクスタシーと関係している。愛(興味)と行為(探求)とエクスタシー(達成感)は、いつも一本の糸で結ばれている。

以下は、芦澤氏が販売しているレゾネーターに関する説明です。
フェルト、グラスウールや綿などの吸音材は多孔質吸音材と呼ばれています。羊毛、ガラス繊維、木綿、合成繊維等、繊維の絡み合い、積み重ねによってできた層には、 繊維と繊維の間に多数の隙間、細孔が形成されます。この細孔部にある空気が振動する(音波が伝わる) 際に、空気が細孔部(繊維)と、摩擦することにより、音のエネルギーが熱エネルギーに転換され、吸収されます。
しかし、この方法では、300Hz以下(波長が1m以上)の低音を吸収することは困難と言われています。
 これに対して、吸音レゾネーター(閉じた紙箱又は紙風船)は、2KHz以下に対して特に有効な吸音材です。 音を紙の振動に変換して吸収します。これほど簡単な方式で、男声(低音)の篭りを低減出来る方法はないと思います。
今回ご提供する吸音レゾネーターは、和紙揉紙と天然素材との複合材料で構成されています。クラフト紙のみの吸音レゾネーターに比べ、再生音がより静かになります。今まで良く判別できなかった微小な信号も聞き分けできるようになります。

更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26