イコライズ・エクスタシー

2007.11.12

ステレオサウンド誌で「オーディオ演奏家論」を展開する、オーディオ評論家 菅野沖彦氏は、同誌年末恒例のオーディオコンポグランプリで、いつもMacintoshのアンプを推薦している。ご自分でも愛用されてるようだが、その理由のひとつに、Macintoshのプリ部にはそれなりに細かな調整ができるイコライザーが付いているから、ということがあるようだ。つまり、菅野氏はオーディオ演奏家として「積極的な音づくり」と言う意味のイコライズ使用を勧めていると解釈できる。

イコライザーというと、昔のステレオ全盛時代、ステレオセットのアンプについていた、あきらかに中音にまで影響が及ぶことが想像できる、アバウトな周波数曲線の低音・高音のイコライズつまみや、深夜小音量で音楽を聴くときに、相対的に聞こえにくくなる低音をブースとするためのラウドネスボタンなど、音質の改善というより、音をこね繰り回して劣化させてしまうような、よろしくないイメージがある。

そんなことがトラウマになっているのか、オーディオマニアといわれる人たちのほとんどは、イコライザーやイコライズ回路が付いたアンプを嫌う。「音の純度が下がる」というのが、彼らがイコライザを嫌う理由だ。システムにいろいろと機器が追加されるのも同じ理由で嫌う。「接点が増えると音の純度が下がる」だ。

典型的イコライザー機器として、20〜20000Hzを数十分割して、スライドボリュームで細かくイコライズできるものがたくさん出回っていたことがあるが、あれを使って、測定器上で周波数をフラットにした音というのは相当ひどいものらしい。実は、周波数フラットが最高と考えるのは、人間の聴力の生理機能からして大間違いなのだそうだ。

「等ラウドネス曲線」という、音(純音)が全帯域でフラットに聞こえるための音量と周波数の相関関係をグラフにしたものがある。このグラフを見ると、低音部は緩やかだがかなりブースとしないときちんと聞こえないことが分かる。逆に音圧レベルの大小にかかわらず、すごく聞こえてしまうという意味の曲線の沈み込みが3000 Hz近辺にある。この周波数近辺を抑えてやらないとうるさい音になりそうな、下向きにぴょっこり凹んたU字曲線だ。

■「等ラウドネス曲線」
赤い線は、2003年8月15日付で決められた、新規格の曲線。50年代に規格化された旧規格より、1kHz以下の低い周波数帯域範囲で、10〜15dB(デシベル)という極めて大きな差がある(10dBは音の強さ換算で10倍、15dBは30倍の差に相当)

以前、技術系オーディオ誌で、ピンジャックをたくさん繋いだ部品をつくって、接点を増やした状態にして、A・B切り替えで音質比較するテストをしていたが、その差はほとんど分からないようだった。ああいうテストでは「切り替えた」ということによる心理的な働きかけが、評価に影響しているようで、どちらの音か分からないように完全なブラインドテストをしたら、まずその差は分からないだろう。もし切り替えるときに、どちらかの音量をちょっと上げて切り替えたとしたら、きっとそっちの方が音が良いと判断されるはずだ。

それから、初心者向けのオーディオ入門記事などで「スピーカーコードの長さは左右等しくするのが正しい」なんて書いてあるけれど、ケーブルが2〜3メートル長さが違うことを、音で判断できるなんてことは多分ないだろう。これもまた心理的な影響の方が大きいはず。

正直いうと、私もある時点まで「音の純度」をいつも意識してシステムを組んでいたのだ。そんな私の目を覚まさせたのが、プライベートブランド「メジャグラン」のイコライジング装置「OZOMU(オゾム)」だ。接点が増えるアクセサリー機器で、しかもイコライズする機器を挿入するなんて、「音の純度が下がる」が口癖のマニアは、せせら笑うかも知れない。

■メジャグラン超低音高音ブースト装置「OZOMU(オゾム)」(写真下段のアマチュアライクな外観の方)
メジャグランを主宰する稲田氏は当て字が好きらしく、このオゾムは「音創夢」という字を当ててネーミングしている。私は場末のスナックみたいな当て字は嫌いなので、ここではOZOMUと紹介します。


この装置は、LOWは20Hz、HIGHは22KHzの2点を、最大32dB(40倍)増幅するというもの。(最新型ではLOWのブースト点が20Hzと30Hzで切り替えられたり、ほかにも機能が追加されているようだ)ウーハーは30センチ以上の密閉箱に入れたものだけを使うように注意書きがある。「OZOMU(オゾム)」の効果は絶大で、一度使ったら二度と手放せないと誓えるほどのエクスタシーを味わえる。

アクセサリーに名器ありだ。アンプやスピーカーをグレードアップするわけでもなく、今まで不満たらたらだった低域や超広域がすんなり出てくる。接点が二つ増えることと交換でこれだけの音が得られるのだ。巨大なアンプに取り換えれば、超低域が出ると思って、金に飽かして高価なアンプを取っ換え引っ換えしているような人は、一生このエクスタシーを味わえないだろう。

■余談だが、私も菅野氏が主催する「オーディオ演奏家クラブ」の会員である。残念ながら私のような、ステレオサウンドに広告が出ているハイエンド機器をあんまり使っていない、自作機器も使用する会員は相手にされない。

更新日 2020-04-26 | 作成日 2020-04-26